医療連携 運動器疾患

多職種が集まる会に賛同し世話人に それぞれのネットワークを多重活用

名古屋第二赤十字病院スタッフ

黒木 信之 氏
医療社会事業課長

黒木 信之 氏

●―八事整形医療連携会は黒木さんが従来築いてこられたネットワークが生かされていますね。

当院では1990年に地域療養支援センターが立ち上がった頃から病診連携を開始しており、現在では1000件の登録医を抱えています。さらに、98年には名古屋市医師会の千種区・昭和区のモデル事業として病病連携システムも構築し、14件の登録病院と連携を行っていました。これらのネットワークが八事整形医療連携会の参加施設の基礎になっています。ただし、回復期リハビリ機能を持つ連携施設は不足していたので、連携会の活動を通じて医療社会事業課が独自にネットワークを築いてきました。現在は、地域連携パスの登録病院として合計39病医院が参加してくれています。

●―ネットワーク構築の際に重要なポイントを教えてください。

医療社会事業課のMSW(メディカル・ソーシャル・ワーカー)がネットワークを築いていくにあたっては、連携施設の窓口となる担当者(MSW、看護師、事務職員など)を訪問して、窓口を誰にするか、患者情報はどの程度提供したらよいのか、病院の機能に合わせてどのような患者さんを紹介できるか、などを必ず話し合っています。顔の見える連携の実現と、病院の機能評価をきちんと行うことが重要なポイントですので、多忙な合間を縫って連携施設を訪問するという地道な努力を重ねてきました。患者さんの医療・看護・介護の情報と家族・経済・生活状況をすべて把握した上で、どの転院先が適切かどうかの判断をできるように情報の整備が必要なのです。


●―今後の展望をお聞かせください。

在宅まで見据えた連携が課題です。そのための新たなネットワークも必要と考えています。病院と在宅医、それから訪問看護師が1つのチームとして組織的に動けるよう病院がバックアップしていく必要があるのではないかと考えています。将来は在宅に関与するスタッフの連携会への参加も視野に入れたいと思っています。




古城 敦子 氏
地域医療連携センター相談支援室
看護師長
(前・整形外科病棟看護師長)

古城 敦子 氏


●―整形外科病棟の看護師長として、地域連携パスの必要性をどのように感じられていたのでしょうか?

地域連携パスを運用する以前は、書類の不備などが原因で、転院先からの問い合わせも多く、密な情報共有の必要性を感じていました。情報共有ツールとして地域連携パスはとても有用だと思っています。また、連携会を通じて看護師同士がお互いの顔を知ることで、苦情が出た際の対応もスムーズに行えると感じています。


●―地域連携パス作成の際、苦労された点はありますでしょうか?

最も苦労したのは、地域連携パスに対する共通理解を持つことでした。作成当初は、パスは連携する際の一つのコミュニケーションツールのようなものだという漠然とした認識しかなく、また、他に事例もなかったことから、皆が理解できる書式にするまでは試行錯誤の日々でした。運用後も、連携施設での認識がバラバラで、記入方法などを記載した運用マニュアルを作成するなどの工夫をしながら、2、3年してようやく、地域連携パスの共通理解が持てるようになったと思います。


●―絶えず見直しにも努めていらっしゃいますね。

連携会では職種別に定期的なワークショップを開催しているのですが、そこで出された意見や要望を必ず集約して、地域連携パスの修正に生かしています。08年12月には診療報酬改定の影響も受けて、日常生活機能評価表を地域連携パスの中に盛り込むなど大幅な改訂を図りました。ほかにも、医師による病状説明が不十分で、説明の内容と患者さんの希望との違いから転院先でのトラブルが何度も起こったことから、パス表の中に、医学的な目標と患者家族が臨んでいる目標を明記する欄を別に設け、さらに医師が患者さんに説明した内容も記入することにしました。


●―今後の課題や抱負をお聞かせください。

地域連携パスは1つのコミュニケーションツールですから、作成することに満足するのではなく、患者さん満足度の向上につなげていかなくてはなりません。地域連携パスの活用により、患者さんの追い出され感が減って、「転院先のリハビリにお世話になった」というような回答も寄せられるようになりました。とはいえ、やはり誰もが最初の病院に最後までいたかったという思いは残ります。それを少しでも解消できるよう、施設紹介の映像をDVDに収録し、患者説明に活用してみたところ、視覚的イメージに助けられて患者さんの不安が減少しました。このように納得して転院してもらえるような工夫を続けていきたいと思います。




細江 浩典 氏
リハビリテーション課長
理学療法士

細江 浩典 氏


●―地域連携パス作成において、理学療法士の役割はどのようなものがありますでしょうか?

大腿骨頸部骨折の治療は、医師や看護師よりも、リハビリテーションスタッフの関与が大きくなりますから、地域連携パス作成には中心的に関わっていく必要があると思います。特に連携先施設のPT(理学療法士)やOT(作業療法士)には主体的に意見を出していただいています。

最初から完璧な地域連携パスを目指すことを考えて躊躇するのではなく、まずは作成したパスを運用してみて、問題が生じた時点で改善していこうという方針でパスの作成を進めました。改訂を重ねるたびに双方が納得できる地域連携パスに仕上がってきています。

運用しながら改訂したポイントは、多くの連携施設で導入している作業療法を急性期病院においても導入したことです。連携先スタッフから、適応のある人には早くOTが介入することで良い結果が得られるのではないかという意見が出されたためです。また、ADLが「できる」「できない」で2択にされていたのを、それぞれパーセンテージで評価するようにしたのも大きな改良点です。


●―今後の課題や展望をお聞かせください。

現在はあらかじめ設定しているリハビリ行程で、行えた日付を記入するアウトカム志向の地域連携パスにしているのですが、今後はいつまでにどのリハビリを終えるといった日数設定をし、最終目標である帰宅や在宅までの期間をあらかじめ盛り込んだパスに変更できないか検討したいと思っております。リハビリの進行を日数で区切って目標を決めるパスでは、多くの例でバリアンスが生じる可能性が高いためアウトカム志向の地域連携パスにしているのですが、一方ですべてのバリアンス分析をした上で、将来的には患者さんの状況によってパターン分けした日数で区切って目標を決めるパスを作成することもできるのではないかと考えています。




田宮 真一 先生
整形外科病棟担当薬剤師

田宮 真一 先生


●―連携会に薬剤師として参加されてどのように感じられているのでしょうか?

多職種との相互理解・関与が連携会の重要な意義であり、薬剤師の職域を広げる大きな機会だと思っています。大腿骨頸部骨折における急性期の薬物治療での薬剤師の役割はあまりありませんが、骨折の背景には骨粗鬆症があり、再骨折の予防のために中長期スパンで考えた投薬設計の提案や、高齢の患者さんが多いことから、薬剤費も考慮した持参薬の整理も薬剤師の役割だと思っています。

また、連携会に参加しているリハビリスタッフなどに対して、薬の情報を知ってもらうきっかけになると思っています。薬剤師が病棟で服薬指導をする時間だけでは、患者さんから得られる情報は限られてしまいますが、リハビリスタッフは患者さんと接する時間が長いので、筋弛緩剤や睡眠薬などの薬の知識を持ってもらえば、副作用の早期発見につなげられます。連携会で薬に関する話をするのはもちろん、最近はリハビリスタッフを対象にした院外の勉強会の講師を務めることもあります。反対に、薬剤師がリハビリに関する知識を得られるいい機会にもなると思っています。薬物治療は、他の治療から独立して存在するわけではないので、薬剤師がリハビリ治療の基本を知っておくことも必要です。


●―今後の課題や展望をお聞かせください。

連携会に定期的に参加している薬剤師は現状で私のみです。こうした多職種の集まりに薬剤師の参加をもっと増やしていく必要があると思います。他職種の知識を吸収して、治療全体へのかかわりを深めていく一方で、薬の知識を提供することで、多職種の助力を得て、自ら設計した薬物治療の効果を高めていくことが重要と考えています。さらには、八事整形医療連携から地域住民に対しても情報発信を続けて、予防に対する知識の普及や地域医療の向上を図っていきたいと思っています。


名古屋第二赤十字病院 木村病院
佐藤先生
黒木氏
古城氏
細江氏
田宮先生
木村先生


陽明 寺本クリニック 加藤病院
寺本先生
寺本(真)先生
水谷氏
安達氏
松田氏
銭田氏



転載:アステラス製薬「Astellas Medical Net」